CHEF#008
味は削るほど深くなる、
素材の個性を引き出す視点
Minimal  山下貴嗣
Bean to Barで“チョコレートの新しい価値”を生み出すMinimal代表。

 

「山下貴嗣氏|Bean to Barで“チョコレートの新しい価値”を生み出すMinimal代表。」

 Bean to Bar Chocolateとの出会いをきっかけに、チョコレートの可能性に魅了され、Minimal - Bean to Bar Chocolate -」 を創業。

― 年間4か月以上をカカオ産地で過ごし、農家と協働しながらカカオ豆の品質向上と持続的な生産環境づくりに取り組む。

― 独自の製法でカカオの個性を引き出し、創業3年で インターナショナルチョコレートアワード世界大会 金賞(日本初) を受賞。

― グッドデザイン賞ベスト100・特別賞「ものづくり」、WIRED Audi Innovation Award などを受賞し、クラフトチョコレートの新しい文化を発信。

― 夢は「世界中の美味しいカカオを食べること」。カカオの魅力を軸に、新しいチョコレート体験の創出を続けている。

 

Minimalでは、カカオ豆の発酵から関わっていると伺いました。そこまで遡る理由は何でしょうか。

カカオって赤道直下で収穫されて、果肉ごと木箱に入れて発酵させるんです。その発酵と乾燥の段階で、ほぼ味の方向性は決まる。だから、出来上がった豆を仕入れて加工するだけでなく、発酵の温度や攪拌のタイミングまで含めて設計したいので、農家さんと一緒にやっています。一般的なカカオ豆の流通ではここまでやっていることろは、なかなかないと思います。

チョコレートは西洋の文化ですけど、「発酵」という視点で見ると、日本人の感覚に近いものがあると思っていて。和食も、素材をどう活かすかという文化ですよね。

 

 

― その素材との向き合い方が、Minimalという名前にもつながっているのでしょうか。

そうですね。Minimal=最小限。

チョコレートの最小単位はカカオだと思っています。

だから基本はカカオと砂糖だけでチョコレートを造ります。油脂を足さない

ヨーロッパ的にリッチさを“足していく”のではなく、どこまで“引けるか”、それが素材に向き合う新しいチョコレートだし、日本人のフィルターでチョコレートを再構築することではないかと思っています。

さらには、良い意味で味を固定しないことも大事にしています。

カカオは農作物なので毎年味は変わる。それをチョコレートの味として均一化することもできますが、僕らはあえて変化を楽しむ設計にしています。ワインのように収穫した年の味わいの違いを楽しむという新しさを提供する。私はブランドって再現性だけじゃないと思っていて、「どういう価値を提示するか」のほうが大事かなと思っています。

 

変化を楽しむという考えは、味づくりの方法にも影響していますか。

していますね。

 味づくりは大きく二通りあって、「こういう味にしたい」という理想から逆算する方法と、豆の持っている要素を分解して積み上げていく方法。僕はどちらかというと後者です。

センス型というより、積み上げ型。日々テイスティングしていると、「この酸はどこから来ているか」「この渋みは何が原因か」と少しずつ分かるようになる。量を重ねることで質が変わっていく感じです。

 

 

― その思想は、店舗の設計にも通じているように感じます。

そうなんです。富ヶ谷本店は、今の自分なら選ばない立地かもしれません(笑)。

当時は経験がなかったからこそ選べた立地です。結果的に目的来店型の店になり、わざわざ来てもらうその体験自体が価値になる。店内をカウンター設計にしたのは、スタッフとお客様を分断したくなかったからです。

 チョコレートを渡して終わりではなく、会話の中で理解してもらう形にしたかった。

 

そういった考えは、どういったところから来ているんですか?

そうですね、その考えはワインやスペシャルティコーヒーの世界の影響が大きいと思います。

知らない街に行ったら、まずスペシャルティコーヒー屋を調べるんです。そういう店には感度の高い人が集まっていて、雰囲気や会話から「あ、この街は今こういう感じなんだな」って分かる。そこで仲良くなった人に、いいビストロやナチュラルワインの店を聞いて行ってみると、その街の文化が見えてくるんですよね。あとは、かっこいい店のセンスを吸収する。「こういう見せ方いいな、これはかっこいいな。」って。それがもう、自分の中ではルーティンになっています。

スペシャルティコーヒー栽培から収穫、精選、輸送、焙煎、抽出までの各工程で厳格に管理し、独自の風味や個性が明確に感じられる高品質なコーヒーを提供するお店。

 

味、体験、そして経営。そのすべてがつながっている印象を受けます。経営において大切にしている判断軸は何でしょうか。

僕は「現地・現物・現実」を大事にしています

創業前に世界中のBean to Barブランドの工房や店舗を2ヶ月かけて回って、「これは来る」と確信しました。

そのため、帰国を早めて、クリスマス、バレンタイン前にお店をオープンさせました。海外でのムーブメントを肌で感じたことがオープン日を早める決断に至り、結果として、Bean to Barの先駆けとして認知を獲得できました。 タイミングも大事だし、動くことも大事。

コロナのときは、先が見えないという漠然とした不安感が現場に蔓延していると気づきました。そのため、まず社員に「年末まで雇用は守る」と先に宣言しました。その結果として各現場の社員が安心して仕事に集中してくれて、いち早くコロナ禍でECを中心としたオンライン販売へとシフトすることができました。

 ブランドって、お客様の心の中に価値を置くことだと思っています。現地・現物・現実を大事にしながら、何をお客様に提供できるかを考え続けることを大切にしています。チョコレートを売るというより、新しくて美味しいチョコレート体験を届ける

それが、Minimalの軸ですね。

編集後記

チョコレートの話をしているはずなのに、 どこか「ものづくり」そのものの話を聞いているような感覚がありました。山下さんが何度も口にされたのは、「引き算」という言葉。けれどそれは、削るという行為ではなく、“何を残すかを決める”という選択のことでした。

味を均一にしない。変化を消さない。素材の揺らぎを受け入れる。

効率や安定が求められる時代にあって、それは簡単な選択ではないはずです。それでも「構造」で考え、本質に立ち返りながら磨き続ける姿勢に、 Minimalというブランドの芯を見た気がしました。

私たちは日々、多くの情報や選択肢の中で生きています。その中で、本当に残したいものは何か。

引き算の先にある“自分の基準”を、あらためて問い直したくなる対談でした。

CHEFが大切にしている「感覚を磨く」という在り方も、どこかこの姿勢と重なっているように感じます。
感性を磨いてテクスチャーを選ぶスキンケアを見てみる

山下貴嗣

山下 貴嗣(やました・たかつぐ)

Bean to Barで“チョコレートの新しい価値”を生み出すMinimal - Bean to Bar Chocolate -代表

1984年、岐阜県生まれ。大学卒業後、コンサルティング会社に入社し、新規事業の立ち上げにも参画。2010年、Bean to Bar Chocolateとの出会いをきっかけに、チョコレートの可能性に魅了され、2014年、株式会社βaceを立ち上げ、東京・富ヶ谷にクラフトチョコレートブランド 「Minimal - Bean to Bar Chocolate -」 を展開。
年間4か月以上をカカオ産地に出向き、農家と協働しながらカカオ豆の品質向上と持続的な生産環境づくりに取り組む。

Minimal -Bean to Bar Chocolate-

Instagram