2025.10.10
YUKIRIN

「YUKIRIN氏|香りで人と時代をつなぐ、美容・香水ジャーナリスト」
―日本唯一の「香水ジャーナリスト」として、数千種以上の香水に精通。
―メディアでのコラム連載や記事監修、化粧品ブランドの香り監修・ブランディングを多数担当。
―国内外の香水アワード審査員や百貨店イベント登壇など、多方面で活動。
―最新情報を発信する香水専門インスタライブを日本で初めてスタートさせる。
―まず始めに香水ジャーナリストってどんなお仕事なんですか?
香水ジャーナリストとは、さまざまなブランドを客観的に見て、トレンドやクリエーションについて情報を把握し、業界やユーザーへアウトプットする香水の専門家です。ただ香水を紹介するだけではなく、香水の文化やストーリー、時代の背景、人の心の動きと結びつけて言語化する役割です。香りと香水は似ているようで違い、香水にはよりアートの側面があると考えています。また単に「いい匂い」だけで語れるものではなく、その人の記憶や価値観、感性に深く繋がっています。私は、香りを通して「今の時代にどんな気持ちや美しさが求められているのか」と、創り手の想いを同時に読み解き、分かりやすく言葉でアウトプットすることを意識しています。
―活動を始められたきっかけを教えてください。
私はもともと音楽業界でマーケティングやプロモーションの仕事に従事している中、趣味でおすすめの化粧品や香りについてブログを書いていました。2003年当時はまだ「インフルエンサー」という言葉もなく、「ブロガー」が始まった頃でした。その中で、自分なりの視点で商品レビューをしていたんですが、そのブログが想定以上に多くの方に支持いただき、ブログサービスのランキングで常に1位を争っていました。その後、メディアや出版社から声をかけていただくようになり、コラムの連載枠などを持つようになりました。特に香水はレビューにとどまらず、コンセプトやストーリー、背景、香料のブレンドについても掘り下げて言語化していたことが、結果的に“香水ジャーナリスト”としての仕事につながったのだと思います。
―文章表現はもともと得意だったのですか?
実はずっと数学を勉強してきたので、理系なんです。ただ、子どもの頃から本や映画が好きで、周りの子が外で遊んでいる時も私は図書館にこもって、物語の世界に没頭している子供でした。その習慣が「想像力と言葉で世界を描く力」を自然と育ててくれたのだと思います。香りは目に見えないものなので、それを言葉で表現する作業には、物語を紡ぐような感覚が必要です。また、数学的な強みが、文章の構成力などにも良い影響を与えてくれているとも思います。
―香水にはいつ頃興味を持ちましたか?
小学生の頃です。当時はガチャガチャで手に入るシンプルな香水に夢中になり、中学・高校になるとお小遣いやお年玉で自分の香水を買い始めました。最初に自分で購入したのは仏のファッションブランド「アニエスベー」の「ル・ベー」という香水です。ハート型のキラキラしたガラスボトルに一目惚れし、柔らかくフレッシュな香りに魅了されました。その時感じたときめきは、未だに鮮明に記憶に残っています。香りはただの匂いではなく、記憶や感情を呼び起こす特別な存在だと改めて感じます。

―香水の役割は時代によって変わりましたか?
はい。香りが時代によって変遷してきた部分は、大いにあると思います。90年代の日本はブランド香水を身につけることが自己主張であり、社会的ステータスでもあったようです。ところが、2000年代に入ると「無臭」が好まれる時代に。これは就職氷河期や経済不況の影響で、自己主張よりも「嫌われないこと」や「周囲と調和すること」が重視されるようになったからです。そのため、華やかな香水を多く纏ったり、濃厚な香りで主張することを避ける人が多くなりました。このように香りを通して、その時代の価値観や社会心理が見えてきますよね。
―日本人はなぜ嫌な匂いを出したくないのでしょうか。
「嫌われたくない」という心理が大きいと思います。体臭や加齢臭についての話題にも敏感ですよね。海外と比べると、日本人は自分の意見を控えめにする傾向が強いと思いますが、香りにも同じ傾向が表れます。香りの嗜好にも国民性が反映されるんですね。
―ここ最近の香りの役割はどう変わっていますか?
コロナ禍で外出の機会が減った時に、「好感度のための香り」から「自分を癒す香り」へと大きくシフトし、ルームフレグランスや自分が好きな香りを纏う方向性に変わりました。コロナ禍が終わった後、また外出の機会は増えましたが、「他者のため」ではない「自己表現」の香りを纏う役割に発展しました。自分に合った香りを求めるフレグランス市場が伸び、自宅で心を整えたり、自分を鼓舞する手段としても香りが選ばれるようになったんです。そして香りは今やファッション的役割だけではなく、メンタルケアやセルフマネジメント、セルフブランディングの領域にまで広がっていると言えるでしょう。

―最近ではレイヤリングを推奨しているブランドさんも増加しましたよね。
そうですね。「ジョー マローン ロンドン」が香りのレイヤリングに関してパイオニアブランドですが、昨今レイヤリングを推奨するブランドは増加しており、自分だけの香りを纏うことで「個性を尊重する」という時代背景に合致しているからだと考えています。レイヤリングは単なる香りの重ねづけではなく、自分だけのスペシャリティーを見出す行為とも言えます。香りの組み合わせを探す過程そのものが、自己表現であり自己理解につながります。
―香りの選び方のアドバイスはありますか?
私自身に関しては、特にルールを設けずに選んでいます。夜でも明るい香りを楽しんだり、睡眠時に海を思わせる香りでリラックスしたり、寒い季節にひんやりする香りを使って、より寒さを感じることも好きです。自分の多面性が好きですし、すぐに他人に理解されたくない天邪鬼な面もあるからかもしれません。纏う前に「自分がどんな気持ちになりたいか」を想像することが、香り選びの第一歩になるのかなと思います。香りは外見ではなく内面をデザインするツールでもあるので、自分の心の状態を見つめ直すきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
―香りと肌、体臭との相性はどう判断したらいいですか?
好みの影響も多いですが、基本的には肌と香りが重なった時に、その香りが強く出るかどうかで相性を見ています。甘い香りを纏って甘さが高まる場合は、ご自身の肌がもともと甘い香りである可能性が高く、甘くなりすぎて酔ってしまうことも考えられます。「この香りは好きだけど自分の肌には合わない」ということはありませんか?それはご自身の肌の香りと、その香水がマッチしていないからかもしれません。同時に、以前は好きではなかった香りが、今は好みに合って不思議ということもあります。香りは人生経験や環境によっても変化し、季節や気分にも大きく左右されます。だからこそ、自分の好みと肌との相性、自分の欲している気持ちの部分を探っていくことが大事なのではないかと思います。

―日常生活の中で「香りは人の心を映す」と感じた瞬間はありますか?
はい。実は私、パートナーが家に帰ってきた瞬間の香りで、疲れの度合いが分かります。疲れることが多かったり、嫌なことがあった時、人間は本能的に嫌な汗をかいたりしますので、臭いとして反映しているのかなと思います。パーソナーにそう感じた時は、いつもより優しく声をかけてあげたり、ケアしてあげています。
―スキンフレグランスというCHEF de BEAUTÉの香りを体験された印象はいかがでしたか?
コンセプト自体にまず驚きました。従来のスキンケアは、無香料か香料入りかの二択ですが、CHEF de BEAUTÉはその日の気分や状態によって香りを選べ、1回ずつ香りを足して混ぜて使スタイルが画期的ですよね。まさに現代らしい感覚と、日々の感情に寄り添う「香りあるコスメ」のカタチだと思います。香りが心に与える作用を理解しているからこその、新しい価値提案として非常に面白いですね。
―最後に香りを選ぶ上で大切にすべきことは何だと思いますか?
香りの系統を理解し、実際に試すことが大事です。そのプロセス自体が自分を知ることにも繋がります。今後も香水の需要は広がると言われており、7年後には世界的に約2倍になると予測されています。香りが身近になる一方で、香りが苦手と感じる人も増えるかもしれません。ただそれは香りそのものが悪いのではなく、強さや種類の問題であることが多いのです。私たちは誰も無臭の世界で生きているわけではなく、飲食物や自然界の香りなど、常に何らかの香りに囲まれています。だからこそ「どの香りが苦手なのか」、「どの香りが心地よいのか」を丁寧に見極めていけば、好きな香りにも出会える確率は上がり、自分自身を深く理解することにも繋がると思います。

編集後記
YUKIRIN(ユキリン)
日本で唯一の「香水ジャーナリスト」として、これまで数千種の香水に触れ、メディアでコラムの連載や、香りの記事監修を行う香水の専門家。化粧品ブランドの香りの監修や、コピーライティング、ブランディングにも幅広く携わっている。香水に関するアワードの審査員も多く務める他、百貨店の香りイベントにも多く登壇し、素肌の匂いや四体液説に基づくオリジナルの「香りのパーソナルカウンセリング」が人気。
最新情報を発信する香水専門インスタライブを日本で初めてスタートさせ、5年間毎月配信し続けている。
